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モデリング基礎 8: スタジオ撮影

題名 内容、及び関連する章 作成日/注記
108 8_スタジオ撮影 リアルな絵を作る方法、組み合わせ、特殊な機能、作る能力、見極める能力、よく見て、よく描く、リアルでない部分を修正する、環境、スタジオ、エリアシャドウ、減衰、ライトボックスを置く、照明すること、影を描くこと、映り込むこと、 2012.1.10

Step 1

リアルな絵を作る方法

 講習会をやっていてよく話題に上るのは、「リアルな絵を作る方法」についてです。また、「このような講習を受けてもリアルな絵を作れるようになるとは思えない」とも言われます。それは、正しくもあり、間違っているとも思います。正しいと思うのは、確かにこの講習会を受けてもリアルな絵を作れるようにはならないからです。また、間違っていると思うのは、この講習会で扱っている基本的な機能を「組み合わせる」だけでリアルな絵を作れるからです。鍵となるのは「組み合わせ」です。しかし、組み合わせは無限にあるので、その全てを講習会で教えることはできません。また、そもそも組み合わせは憶えておくものではなく、その場で臨機応変に考えるものです。

 

例えば、サッカーや囲碁、将棋等のゲームを思い浮かべてみて下さい。確かにそこには「セットプレー」とか「定石」というものが存在し、教えることができます。しかし、一回聞いただけで体得できるものではありません。また、セットプレーや定石だけで実戦に臨むことはできません。

ワールドカップや名人戦であっても、特殊なボールや石、駒を使うわけではありません。優れているのは「組み合わせ」であり、「基本的な機能」は私たちと変らないのです。

 

それでは、「リアルな絵を作る」という目的に対して、この「組み合わせ」能力を向上させていく方法について説明します。

1. リアルな絵を作るには特殊な機能が必要だ、という思い込みを捨てる。

勉強以前の段階にいる人の多くがこのような思い込みを持っています。この「特殊な機能」という部分は、上の例で言うと「特殊なボールや石、駒」に相当します。言い換えれば、「ワールドカップに出ている選手は、特殊なボールを使っているからあんなに素晴らしいプレーができるのだ」と信じている人は、絶対に上達しません。

特に3DCGや写真は機械に依存する部分が多いので、「特殊なソフト」、「特殊なコンピュータ」、「特殊な機能」、「特殊なカメラ」を追い求める人がたくさんいます。この「特殊な」という部分は「魔法の」と言い換えてもいいのですが、それは「青い鳥」であって、そんなものは存在しません。

「そんなものは存在しない」と悟った時に、初めて本質的な勉強を始めることができます。

 

2. リアルな絵を作るには、何がリアルで何がリアルでないか見極める必要がある。

勉強初期や中期の人がよく陥るのは、リアルな絵を「作る能力」にこだわることです。しかし、重要なのは「見極める能力」です。

例えば、優れた絵描きが失明すれば絵を描けなくなります。それは「見極める能力」が失われるからです。しかし手が失われても絵は描けます。それは、弟子に指示して描かせる、という方法があるからです。実際のところ、優秀な画家や職人、写真家、技術者のほとんどは「工房」や「会社」というシステムの中で仕事をしており、全てを自分の手で作っているわけではありません。

実は、見極める能力のある人間から的確な指示を受ければ、誰でもすぐにリアルな絵を作れます。この講習会自体がそれを証明しています。作る能力というのは結局その程度のものであり、重要なのは「どうしたら自分で自分に的確な指示を出せるようになるか」ということなのです。

 

3. よく見て、よく描く。

「見極める能力」を向上させるための唯一の方法は、リアルな絵を自分の目で「よく見て」、自分の手で「よく描く」ことです。それ以外に方法はありません。

見るだけでもダメです。描くだけでもダメです。これは、サッカーや囲碁、将棋と全く同じです。また、「リアルな絵」というのは、実物でもいいですし、絵画でも写真でも3DCGでもいいです。自分がリアルな絵だと感じたら、それがリアルな絵です。

そのバランスと効率がよければ、例えば数年でそれなりの「見極める能力」を身につけられると思います。また、既に絵画や写真に対する「見極める能力」を持っている人は、より短期間で3DCGに対する能力を身につけられるかも知れません。ただし、この場合「先入観」が邪魔をして、より難しくなる可能性も多分にあるので、よく考えながら勉強して下さい。

 

4. リアルでない部分を修正する。

最後に、リアルな絵を描くための「具体的な手順」について説明します。これは、私が高校生の時に読んだある絵描きの言葉ですが、その後30数年経って「全くその通りだ」と思っています。

a. 何か適当に描く。

b. 描いた絵を見極めて、リアルな部分とリアルでない部分に分け、リアルでない部分を適当に修正する。

c. リアルでない部分がなくなるまで、b.をくり返し実行する。

d. リアルな絵が完成。

 

この手順を見ると、いかに「見極める能力」が重要で、「作る能力」が重要でないか判ると思います。実際3DCGの制作においても、使う機能やパラメータの値が一発で決まることはほとんどありません。常に「適当に値を入れて、よかったらそれでOK、ダメだったら修正」のくり返しです。

結局「作る能力が高い」というのは、「短時間でOKを出せる」ということに過ぎません。それによって向上するのは「時給」であって、「絵のリアリティや価値」ではないのです。

 

 

Step 2

環境

 3DCGソフトには、現実をシミュレートするための機能がいろいろありますが、リアルな絵を作るために一番重要なのは「カメラと照明」です。その次に重要なのが「マテリアルとアニメーション」であり、最後が「テクスチャとモデリング」です。この点が日本では誤解されていて、「テクスチャとモデリングが一番重要だ」と書かれている本がたくさんあります。確かに「3Dゲームの部品」を作るのが目的ならその通りですが、「絵」を作るのが目的なら、それ以外に重要なことがたくさんある、ということを憶えておいて下さい。ここでは、カメラと照明を含む「環境」という考え方について、一つの「定石」を説明します。

 

それでは、スタジオのシーンファイル(iPodTouch4_studio110.zip)を開いて、サンプルとして置いてあるiPod Touchを、今回みなさんが作ったiPod Touchに置き換えて下さい。

このスタジオでは、テーブルにアニメーションが付いているので、タイムマーカーを動かすとiPod Touch3台をまとめて1回転させることができます。

図108-1

前から見た絵はさほど違和感がないのですが、後から見た絵はかなり変です。「何だこの黒い物体は」という感じですが、何か設定が間違っているわけではありません。実際に同じ環境を作れば、似たような写真を撮ることができます。

iPod Touchの背面が黒いのは、その部分が「鏡」になっていて周囲を映しているからです。ところが現在スタジオの壁は非表示になっていて、周囲には何もありません(図108-2)。だから真っ黒に見えるわけです。しかし、編集中の画面を見ても周囲がどうなっているかは判りません。レンダリングして初めて光の「屈折」や「鏡面反射」が計算され、エディタ画面に見えていなかったものが見えてくるのです。

よく「見えないものは作らなくていい」と言う人がいますが、レイトレーシングや間接照明を計算できるレンダラーにとって、「見えないもの」など存在しません。また、直接見えないものでも丁寧に作り、計算させることが、リアルな絵につながるのです。したがって、「見えないものは作らなくていい」と思っている人はまずその点を改め、少なくとも大きいものは全て作るようにして下さい。後で問題が生じてから作り直すよりも、その方がずっと楽です。

図108-2

 

それでは「room」を表示させてみましょう。この状態でレンダリングすると、iPod Touchの背面に右の壁が映り込んで、少しは金属っぽくなってきます。しかし、上や左、後の壁には光が当たっていないので黒いままです(図108-4)。この部屋にはまだライトがなく、デフォルトライトで仮に照明されているのです。このままではどうしようもありません。

図108-3

図108-4

 

 

Step 3

ライトを置く

 それではライトを表示させます。ライトは部屋の中央上部に2個置いてあり、「light_L」、「light_R」という名前になっています。ライトを置くと部屋全体が明るくなり、iPod Touchの背面もリアルに表現されます(図108-6)。ライトの「タイプ」は「全方向」で、「エリアシャドウ」と「減衰」という性質を与えています。これらの詳細については、010章「照明基礎」を参照して下さい。

図108-5

図108-6

この結果を見れば、ライトの重要性がよくわかると思います。エリアシャドウによって自然な影が表現されています。また、スタジオの壁の角を丸くすることや、減衰によって自然なグラデーションが表現されています。

ただし、ライトを置けば何でもリアルになるというわけではありません。発想を逆にして、「絵がリアルに見えるように」ライトを置くのです。ここが難しいところです。

例えば、現実のシーンと同じようにライトを配置しても、それがリアルに見えるとは限りません。また、そもそも現実自体がリアルに見えるとは限りません。「リアル」とはそういうものです。

しかしほとんどの場合、現実の照明に近いところに「正しい照明」があります。特に初心者の場合は、まず現実通りに照明を作り、そこから試行錯誤するのがリアルな絵に到達するための近道だと思います。

 

 

Step 4

ライトボックスを置く

 最後にライトボックスについて説明します。1. 一般的にライトの第一の目的は、オブジェクトを「照明すること」です。具体的にCINEMA 4Dの機能で言うと、オブジェクトに適用されたマテリアルの「カラー」チャンネルを働かせること、となります。

しかし、ライトの大きさや形状を変えてもカラーチャンネルはほとんど変化しません。

図108-7

 

2. 次に、ライトの第2の目的はオブジェクトの「影を描くこと」です。そして、ライトの大きさを変えると、影のボケが変化します。しかし、ライトの形状を変えても影はほとんど変化しません。

図108-8

 

3. ライトの第3の目的は、オブジェクトに「映り込むこと」です。これはマテリアルの「鏡面反射」チャンネルによって計算されます。そして、映り込みに関してはライトの形状がそのまま反映されます。この映り込みを表現するための手段がライトボックスです。

図108-9

 

実際の写真スタジオで使われるライトボックスは、ライトと反射板とディフューザを組み合わせて作っているので「ボックス」になっています。しかし3DCGの場合は、プリミティブに発光するマテリアルを適用するだけでライトボックスを作れます。

また3DCGのライトボックスは、大きさや重さや明るさの制限もなく、空中に静止させることができ、何個作ってもタダです。このような点に関して3DCGは本当に楽です。ぜひ、たくさん作って使いこなして下さい。

「light_box」を表示させてレンダリングすると、図108-10のようになります。iPod Touchの右に「ディスク」で作ったライトボックスが追加してあります(図108-11)。

図108-10

Object_Movie(HTML5)

図108-11

 

ライトボックスのようなオブジェクトは、一般的に「環境」に含まれます。カメラやライトも環境の一部です。そして、いろんな環境を簡単に作れるようにしたのが、「スタジオ」もしくは「舞台」と呼ばれるシーンです。

スタジオそのものは作品でもなく絵でもないので、軽く見られがちです。しかし、実はiPod Touchもそれだけでは単なる「部品」であって、絵ではありません。iPod Touchとスタジオのいろいろな「組み合わせ」の中に、リアルな絵があるのです。

 

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