講習会をやっていてよく話題に上るのは、「リアルな絵を作る方法」についてです。また、「このような講習を受けてもリアルな絵を作れるようになるとは思えない」とも言われます。それは、正しくもあり、間違っているとも思います。正しいと思うのは、確かにこの講習会を受けてもリアルな絵を作れるようにはならないからです。また、間違っていると思うのは、この講習会で扱っている基本的な機能を「組み合わせる」だけでリアルな絵を作れるからです。鍵となるのは「組み合わせ」です。しかし、組み合わせは無限にあるので、その全てを講習会で教えることはできません。また、そもそも組み合わせは憶えておくものではなく、その場で臨機応変に考えるものです。
例えば、サッカーや囲碁、将棋等のゲームを思い浮かべてみて下さい。確かにそこには「セットプレー」とか「定石」というものが存在し、教えることができます。しかし、一回聞いただけで体得できるものではありません。また、セットプレーや定石だけで実戦に臨むことはできません。
ワールドカップや名人戦であっても、特殊なボールや石、駒を使うわけではありません。優れているのは「組み合わせ」であり、「基本的な機能」は私たちと変らないのです。
それでは、「リアルな絵を作る」という目的に対して、この「組み合わせ」能力を向上させていく方法について説明します。
1. リアルな絵を作るには特殊な機能が必要だ、という思い込みを捨てる。
勉強以前の段階にいる人の多くがこのような思い込みを持っています。この「特殊な機能」という部分は、上の例で言うと「特殊なボールや石、駒」に相当します。言い換えれば、「ワールドカップに出ている選手は、特殊なボールを使っているからあんなに素晴らしいプレーができるのだ」と信じている人は、絶対に上達しません。
特に3DCGや写真は機械に依存する部分が多いので、「特殊なソフト」、「特殊なコンピュータ」、「特殊な機能」、「特殊なカメラ」を追い求める人がたくさんいます。この「特殊な」という部分は「魔法の」と言い換えてもいいのですが、それは「青い鳥」であって、そんなものは存在しません。
「そんなものは存在しない」と悟った時に、初めて本質的な勉強を始めることができます。
2. リアルな絵を作るには、何がリアルで何がリアルでないか見極める必要がある。
勉強初期や中期の人がよく陥るのは、リアルな絵を「作る能力」にこだわることです。しかし、重要なのは「見極める能力」です。
例えば、優れた絵描きが失明すれば絵を描けなくなります。それは「見極める能力」が失われるからです。しかし手が失われても絵は描けます。それは、弟子に指示して描かせる、という方法があるからです。実際のところ、優秀な画家や職人、写真家、技術者のほとんどは「工房」や「会社」というシステムの中で仕事をしており、全てを自分の手で作っているわけではありません。
実は、見極める能力のある人間から的確な指示を受ければ、誰でもすぐにリアルな絵を作れます。この講習会自体がそれを証明しています。作る能力というのは結局その程度のものであり、重要なのは「どうしたら自分で自分に的確な指示を出せるようになるか」ということなのです。
3. よく見て、よく描く。
「見極める能力」を向上させるための唯一の方法は、リアルな絵を自分の目で「よく見て」、自分の手で「よく描く」ことです。それ以外に方法はありません。
見るだけでもダメです。描くだけでもダメです。これは、サッカーや囲碁、将棋と全く同じです。また、「リアルな絵」というのは、実物でもいいですし、絵画でも写真でも3DCGでもいいです。自分がリアルな絵だと感じたら、それがリアルな絵です。
そのバランスと効率がよければ、例えば数年でそれなりの「見極める能力」を身につけられると思います。また、既に絵画や写真に対する「見極める能力」を持っている人は、より短期間で3DCGに対する能力を身につけられるかも知れません。ただし、この場合「先入観」が邪魔をして、より難しくなる可能性も多分にあるので、よく考えながら勉強して下さい。
4. リアルでない部分を修正する。
最後に、リアルな絵を描くための「具体的な手順」について説明します。これは、私が高校生の時に読んだある絵描きの言葉ですが、その後30数年経って「全くその通りだ」と思っています。
a. 何か適当に描く。
b. 描いた絵を見極めて、リアルな部分とリアルでない部分に分け、リアルでない部分を適当に修正する。
c. リアルでない部分がなくなるまで、b.をくり返し実行する。
d. リアルな絵が完成。
この手順を見ると、いかに「見極める能力」が重要で、「作る能力」が重要でないか判ると思います。実際3DCGの制作においても、使う機能やパラメータの値が一発で決まることはほとんどありません。常に「適当に値を入れて、よかったらそれでOK、ダメだったら修正」のくり返しです。
結局「作る能力が高い」というのは、「短時間でOKを出せる」ということに過ぎません。それによって向上するのは「時給」であって、「絵のリアリティや価値」ではないのです。
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