オブジェクトができたら、マテリアルを作成します。背面カメラ本体のマテリアルは前面カメラのマテリアルと全く同じなので省略します。また、フィルタは反射防止コーティングがされたガラスということで、前面ガラスの裏側に使ったマテリアルをそのまま使います。次に、フィルタフレームのマテリアルについてですが、これの制作には今回一番苦労しました。とても小さい部品ですが、円周方向にヘアラインが入っています。このようなヘアラインは特殊な旋盤加工をすることによって生じ、「異方性スペキュラ」という特殊効果を発生させます。
図105-4に示したように、通常の面(つまり異方性のない面)では、ライトが映り込む方向に円形のスペキュラが生じます。しかし異方性のある面では、ヘアラインに垂直な方向に長く伸びた特殊なスペキュラが生じます。
図105-4
左が通常のスペキュラ、右は異方性スペキュラ。
そして、図105-5がiPodTouchの背面カメラのフィルタフレームに生じている異方性スペキュラです。前面カメラの制作でも説明した通り、カメラのレンズというのは「目」ですから、とても目立ちます。Appleもそれを知った上で、デザインの一部としてヘアラインを付けているのです。したがって、省略するわけにはいきません。
図105-5
しかし、CINEMA 4Dの標準マテリアルには「異方性スペキュラ」がありません。そこで「特殊効果 -> 照明と異方性」というシェーダを使ってこれを表現します。
図105-6
「照明と異方性」シェーダは、発光チャンネルに入れて使います。今回は「スペキュラ1」チャンネルだけ使用し、他のチャンネルは全て切ってしまいます。また、ヘアラインの投影法は「自動的に同心円パターン」にします。この投影法は原理がよくわからないので、実際に試して決定して下さい。
異方性スペキュラを設定するのは簡単ですが、この段階ではまだ金属部品のようには見えません。理由は、スペキュラがライトにしか働かないからです。これは標準のスペキュラでも異方性スペキュラでも同じ原理的な制約です。したがって、周囲に明るいオブジェクトがあってもそれが映り込みません。
そこで、「鏡面反射」チャンネルと「バンプ」チャンネルを追加します。鏡面反射で金属を、バンプでヘアラインを実際に表現するわけで、より現実に近い方法だと言えます。実際、拡大して見た場合はこれで十分に異方性スペキュラを表現できます。しかし、遠くから見ると、バンプチャンネルの効果がなくなり、同時に異方性スペキュラも消えてしまいます。
というわけで、いろいろ試行錯誤した結果、近くから見た場合は鏡面反射とバンプによる異方性スペキュラが表現され、遠目には照明と異方性シェーダによる異方性スペキュラが表現されるように、うまくバランスを取ることにしました。非常に難しい表現であり、これが一番いい方法なのかどうかはわかりませんが、参考にして下さい。
図105-7
最後に、「コンポジット」タグについて簡単に説明します。フィルタフレームには鏡面反射と細かいバンプがついているため、「ベスト」のアンチエイリアスを強めにかける必要があります(例えば4*4)。しかし、レンダリング設定を開いてシーン全体のアンチエイリアスを強くすると、当然レンダリング時間は長くなります(4*4の場合は16倍遅くなる)。
このような場合、シーン全体のアンチエイリアスは最低(「1*1」)に下げ、必要なオブジェクトにだけコンポジットタグを追加し、「AAの精度を指定」オプションを使ってアンチエイリアスの値を大きくすると、レンダリング時間を大幅に短縮できます。
図105-8
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